<こひつじかい>冬探し遠足

2017年2月24日

 雲ひとつない快晴に包まれた2月12日、いつもの集合場所よりも騒々しい渋谷駅に、子供達が雑踏に紛れながら一人また一人と集まってき来ました。子供達はお父様お母様にご挨拶をすると、磯邊先生の出発の声とともに、ひと回りもふた回りも大きな大人の間をすり抜けながら田園都市線に乗り込みます。例に漏れず今回も、電車の中は話し声でいっぱいになりますが、乗り継ぎ後の世田谷線では場をわきまえた賑やかな話し声がちらほらと聞こえてきました。

 皆それぞれ思い思いに最近の近況報告や与太話を熱弁していると、電車は目的地の山下駅に到着しました。子供達はぴょんと小躍りするように椅子から腰を上げ、電車からホームへぞろぞろと降りていきます。駅からは自分たちの足を頼りに目的地へ向かいます。子供達は人の流れに沿って林立した住宅をすり抜けてゆきます。すり抜け方も十人十色で、白線の上だけを平均台のようにして歩く子や、タイルの上のみを歩くといった物好き達が見られました。20分ほど足を進めていると、羽根木公園が見えてきました。

今回の遠足は、いつも通り電車で向かうのとは別に、自転車組を結成しました。
自転車組は、電車組よりも一足早く集合し、田園調布駅を出発致しました。電車組には伝わらない苦悩なのでしょうが、漕いでいるとなにせ手が悴んでくるのです。快晴であろうと関係ありません。手袋を装着し、大方改善しましたが、出発前の想像以上の辛さを噛み締めながらのスタートとなりました。最後尾から見ていると、走り方ひとつ取ってもそれぞれの個性が観察できます。それぞれ普段とは違った姿を見せてくれ、私にとっての自転車旅における最大の息抜きになりました。まずは、淡々と多摩川の河川敷を上流に向かって漕いでゆきます。舗装されたサイクリングロードは非常に心地よく、さらにこの日は前述した通り、雲ひとつ無い快晴で、富士山が遠目にくっきりと姿を現しており、四六時中、左手前方に綺麗に濃く見えました。満天の富士山に見守られながらのサイクリングロードを外れ、市街地に入ります。すでに少し寄り道をしていたのですが、それでもまだ電車組よりも早く到着してしまうということで市街地でも余分に寄り道をし、羽根木公園へと足を回します。やはりサイクリングロードの方が信号や路面状況において快適ではあるのですが、市街地のサイクリングはまた違った観点、景色の楽しみもあります。景色を楽しみながら、走っていると、ついに羽根木公園の姿が見えてきました。園内の階段を自転車を肩に担ぎながら登り終えると、目の先にある広場に見慣れたいくつもの顔ぶれが現れました。無事に到着し、安堵と共に労いの言葉を期待しつつ、地を踏みしめ、達成感を噛み締めながら彼らのもとへ自転車を押し進めました。

公園では梅まつりが開催されているため、園内には屋台が開かれており、賑やかでした。子供達は梅が綺麗に見える特等席で、まずはお絵かきの時間です。360度すべて梅に囲まれている中、小さな画家たちは思い思いに描き始めました。また勝手な与太話になるのですが、パブロ・ピカソの父親もかつては画家で、この“かつて”の所以として、ある日まだ8歳だったピカソにリンゴの絵を描かせたところ、その熾烈な才能に感化され、以降父親は絵を描くことを辞めてしまったそうです。これと重なるという話ではないのですが、子供達の絵は遠足ごとに上達していて、色の使い分け、絵の分かりやすさ、特に生き物を被写体とした時の迫力が、自分が子供達と同じ年頃だったときの絵よりも上回っていると感じます。こちらが感心している間に、白い紙が子供達の手で梅の鮮やかな桃色に色変わりしていきました。

梅の花を桜の花と誤解している子供が何人かいましたが、奈良時代の人々の間での花といえば桜よりもまず梅で、藤原道真や清少納言、紫式部は桜よりも何よりも梅が好きな愛好家として知られていたそうです。子供達には、梅、桜それぞれの花の良さを知った上で自分の好みを見つけてもらえたら嬉しいです。今年の春は日々開花予想とにらめっこしながら、外に桜を見に行ってしっかりと視覚、嗅覚を研ぎ澄まして観察するのも良いと思います。

 お絵かきの次は、梅の樹から作られる公園の道をみんなで探索です。側から正確、正直に書くと、探索というよりは梅の樹に囲まれた道をコースとしたかけっこ競争です。自然と子供達は広場に集まり、甲高い声をあげながら、広場を魚群のように駆け回ります。次第にお腹が空いてきた子供達、次は昼食の時間です。皆、荷物を持って近くに遊具がある広場へと移動して、昼食が始まりました。近くのお兄さんお姉さんに、自分の小さなお弁当の中からお裾分けしてくれる子や、お友達とトレード交渉をする子もいて、こういった場面でさえも子供達は自然と個性を見せてくれます。こちらにとって、それぞれの子供の性格を知ることができる良い機会です。大切なお弁当から食べ物を分けてくれると気持ちがあたたかくなって自然と会話も弾み、彼らの想像する数倍こちらは嬉しく感じます。ちなみにこの日は、初めてお手伝いに来たお姉さんに幸せのお裾分けは集中しており、彼らの初対面の人に対しての物怖じしない順応性、社交性に感心する一幕となりました。

 食べ終えると、昼食中周りを走り回っていた多くの子供達に混じって遊び始めます。いつもはこういった場面で元気よく他を圧倒しているこひつじかいの子供達ですが、梅まつりの開催日ということで多勢に無勢。この日ばかりは周りも負けず劣らずの騒がしさでした。羽根木公園の遊び場は広場だけでなく、少し歩くと不思議な遊び場もあります。一面ペンキで塗られたベニヤ板で作られる小屋や、手作り感満載の滑り台など、摩訶不思議な広場です。ここでも子供達は、土の上を元気よく走ったり、その滑り台を滑ったり逆に登ったり、滑り台から飛び降りたりと様々な遊び方を披露してくれ、楽しい様子が歴然と伝わってきました。この不思議な遊び場で思う存分体を動かしたあとは、ついに帰りの時間です。

磯邊先生の「帰るよー!」の声がけとともに、四方八方から子供達が土や泥水まみれの姿でぞろぞろと現れ、先生の元に集まり、荷物をまとめて帰路に着きます。一日中お世話になった羽根木公園を後にし、帰りは梅が丘駅からバスに乗車しました。ちなみにこの梅ヶ丘駅、名前の由来としては近くに古墳があり「埋めヶ丘」と呼ばれていた事を基にし、「埋め」を「梅」にかえ「梅ヶ丘」としたとする説があります。これこそ与太話です。非常に混雑していたので、人が乗降する度に車内では押し競饅頭が起きていましたが、誰も弱音を吐くことなく、まだ体力が有り余っていたのか、いつもよりも寝ている子供が少なかったように感じました。しばらくすると渋谷駅に到着します。バスを降りてしばらく歩くとお父様お母様の姿が見えてきました。何よりも怪我なくこの日の冬探し遠足を終えることができ、そこに集まる人たちは皆、安堵の様子でした。

自転車組も電車組と同時に準備がして出発です。帰りの道順は行きと変わり、自転車組のメンバーの家を経由しお見送りするため、都会のみ走行する広尾経由田園調布行きの自転車旅となりました。体力の温存など考えず、思いっきり遊びつくしたので、なかなか朝と同じようにはいきません。残りの力を振り絞って、いわゆる立ち漕ぎになりながら足を上下に動かします。行きと比べ自転車組の仲間の口数は明らかに減っており、自分との勝負で精一杯でしたが、無事にメンバーの家の前に到着しました。今日一日共に頑張った戦友に別れを告げると、再び自転車旅が再開します。この自転車旅が楽しかったようで、『また次回も自転車で参加したい!』と力強く言葉を残して暖かい家の中へと入ってゆきました。その後も無心になって足を回し、ようやく見慣れた田園調布駅に到着致しました。さすがに最後は疲れ切った様子でしたが、「また次回も自転車で」という声が上がるほど楽しんでいたようです。

 まだまだ寒い日のある2月、だからこそ人々は美しい梅の姿を愛でるのでしょう。ここ数年は天候不良などの理由で、私達が冬探し遠足で羽根木公園を訪れることができたのは久しぶりでした。澄んだ空に春めく色合いの花が映え、いつでも元気いっぱい、すくすくと成長する子供達を祝福しているような、幸せな日曜日となりました。

磯邊季里 @ 2017年02月24日 14:58 コメント: (0)

0件のコメント





▲TOPへ戻る