<子育てセミナー>語彙力UPの子育て論~気づきと学びの子育て法~

2018年3月13日

 3月5日月曜日、玉川高島屋の屋上にある玉川テラスに於いて子育てセミナーを行いました。今回は語彙力アップについてのお話ですが、実は私自身、語彙力については自信がありません。このセミナーの準備を自分が学ぶ良い機会ととらえ、様々な本を読み、調べ物をしました。参加された皆さまとご一緒に考える時間にしたいと思い、準備にあたりました。
 初めに皆様に自己紹介をしていただきました。子ども達の語彙力について問題意識を持ちながら、具体的にどのようにすれば良いのかが分からずに模索している、そんな声が多く聞かれました。また、お仕事と子育てを両立し時間的制約があるなかで、子どもとの時間を有意義にしたいという、今の世の中で多くのご家庭が同じように思っていらっしゃるであろう課題も聞かれました。セミナーではご自身の課題だけではなく他のご家庭の課題を伺うことで、物事を客観的に捉えることができたり、結果的に自分の問題の解決の糸口が見えることがあると思います。誰もが一生懸命に子育てに取り組んでいらっしゃるからこそ、少し肩の力を抜いてほっと一息入れるような気持ちで、このようなセミナーを活用していってほしいと思います。


 セミナー恒例の「お話を聴いた後、どうなっていたら良いですか?」について、皆様に書いていただきました。今回初参加の方がいらっしゃるので、今の時代に「自分の字で書く」ことの意義について、今一度お話ししました。語彙力についてお話をする回ですので、自分で書く意識を持つことは殊更大切にしてほしいと思います。ご家庭の中では、その日にすべきことをリスト状に書く習慣をもつことを薦めています。子どもが小さい頃からお母様のこの習慣を見て育つと、学校へ行くようになったときにやるべきことの優先順位を考える姿勢が自然と身につくものです。
 語彙力についてのお話しの準備をしていると、お話のプロとも言えるアナウンサーの言葉使いに注意がいきます。今日のようなお天気では、朝からテレビで「花曇り」という言葉を5回は聞きました。「三寒四温」という言葉もまさに今、良く使われる言葉です。こういった旬な言葉を、子どもにわかるように話してあげると良いと思います。小さな子どもには、特別なお勉強として教えるというよりも、日常生活のなかでいかに楽しみながら身につけていくかが大切だと思います。その為にもお母様方は言葉に対するアンテナを張ることがまず必要です。普段はあまり興味がない分野にもアンテナを張るように意識しましょう。新しい発見が何かあるはずです。

 日常生活の中で親子で言葉をインプットしていくには、一緒に絵本を読んだり、お散歩をしながら見つけたことからお話を展開させたり、五感を使いながら進めることが良いでしょう。春ならば「啓蟄」という言葉があります。言葉の意味を知れば、自然と地面の様子に目がいくことでしょう。昔ながらの童謡を歌うこともとても良いと思います。お母様が一日の中で多くの時間を過ごすお台所も、子どもとの言葉の学びの場にとても適しています。いろいろな音がしたり、お野菜やお料理道具の名前があります。包丁など、小さな子どもには危ないものもありますが、大切に扱わないと割れてしまう食器類を「瀬戸物」と言う、言葉と一緒に物を大切に扱う心も身につきそうです。
 インプットした言葉は、アウトプット、つまり自分で使えるようにしなければなりません。日本語には同音異義語が沢山ありますし、一つの言葉に複数の意味があるものです。日本語はもともと受け取る側の理解に頼る「受信者責任型文化」と言えるので、文脈のなかで言葉の意味を正確に捉えることができなければなりません。小学生達が音読しているのを聞いていると、文章の中で言葉を的確に捉えているかどうかがよくわかります。一見もうわかっているかな?という子どもでも、9歳頃までには特に、気を付けて見てあげてくださいね。文章の中で正しく言葉を理解できなければ、自分でその言葉を活用することはなかなかできないのですから。

 新しくインプットした言葉をアウトプットするには、1つの事を複数の言い方で表すことが役立つと思います。大人の私達には誰にでも頼りがちな言い回しがあるものです。それを、敢て違う言葉で言い換えてみましょう。子どもに対しては、例えば肉じゃがが美味しくできたときに、ただ「美味しいね」と言うのではなく「じゃがいもがほくほくしていて美味しいね」「お出汁の滲み方が絶妙だね」など、様々に表現することができるでしょう。何事も時短が良しとされているような時代ですが、手間をかけるからこそ得らるもの、時短の陰で失うものがあることは否めません。「やばい」という言葉はすっかり市民権を得たように感じますが、この一言で何でも済ませているばかりでは、表現しきれていないものが沢山あることを、皆様は良く理解されることでしょう。
 セミナーを始めるにあたり、「子どもに言葉を教えてあげたいと思うけれど、教え込んでしまうようでは子ども独自の感性を邪魔してしまうような気がする」といった悩みを伺いました。確かに、五感を使って言葉を習得するのですから、その子が本来もっている感覚は大切にしたいですね。語彙力アップに限らず子育ての様々な場面に当てはまると思うのですが、上から目線で教えるというよりも、親も一緒に学ぶという意識が大切なのではないでしょか。子どもより沢山の言葉を知っている大人ですが、前述のように実際に日常的に使っている言葉は偏っていることもあります。子どもと一緒に学び直すような気持ちで日本語と向き合えば、思いがけない楽しい発見があるかもしれません。「ひきこもごも」「にやける」「浮き足立つ」」など、調べてみると自分が認識していた意味が間違っていたことに気付く、という方が多いものです。
 手紙や日記を書くことが、アウトプットには適してると誰もが思うものです。しかし今の時代、手紙を書く習慣は減ってしまいました。そこで、セミナー冒頭で申したような、毎日のすべきことや雑感をメモに残すことを習慣化するようにおすすめしているのです。子ども達は学校で日記を書く課題を与えられると思います。はじめはなかなか書けない、日記を書く時間を苦痛に感じる子どももいるでしょう。けれども自分が思ったことや感じたことを他人に伝えることができる、書くということは本来そんな素敵な道具だということを、子ども達に感じていてほしいものです。自分を表現する語彙が豊富になれば、自分の感情を伝える術も言葉を使って考える力も向上します。学校生活でも、やがて立ち向かっていくビジネスの社会でも、語彙力がワンランク上の世界を見せてくれるでしょう。

 2月の冬季オリンピックでは日本人選手が活躍し、インタビューを受ける様子が度々放映されました。どの選手からも、世界のトップクラスに立つまでの努力に裏付けられた言葉の重みを感じましたが、男子フィギュアスケートの羽生結弦選手の言葉に、特に惹かれるものがありました。今まで羽生選手について特別な興味を持っていなかったのですが、オリンピック2大会連続で金メダルをとった選手の言葉は、スポーツに限らず人として、日本人として生きていく上で大切な事に溢れ、惹きつけられたのだと思います。普段はカナダで練習をし、試合では世界各地へ赴き、様々な国の選手との関わりがあるという環境からか、羽生選手が日本語のすばらしさや日本人であることについて、大切に考えている姿が見て取れます。子ども達が活躍する未来はまさに世界との関わりの中で広がっていくもの。日本人としてどのように生きるかという意識を持つことは、とても重要な課題なのではないでしょうか。
 英語をはじめとする外国の言葉を学ぶことも大切ですが、まずは母語として、日本語を正しく身につけることが先決です。頭や心の中にある抽象的なイメージを、他者に具体的に伝える手段として言葉があるのですから、どんな言葉をどんな言い回しで使うかは、そのままその人の人柄や品位を表すことになります。子ども達だけではなく日頃背中を見せている私達大人も、日々学んでいかなくてはいけませんね。

 先日の桃の節句に因み、お稽古場で散らし寿司の工作をしました。紙を小さく丸めて作ったご飯粒を一粒一粒、数えながら作業をしたり、錦糸卵や絹さやできれいに飾るなど、楽しい工作の時間でした。その後で散らし寿司の絵本を読んだら、自分でやった過程を全部話せた子がいました。正直なところ、この工作ではそこまでできるようになることを目的としていなかったので、嬉しい驚きでした。もちろん子どもの個性にもよりますが、大人がひと工夫をして環境を作ってあげれば、このように驚くほど成長することがあるのが子どもの力です。そしてこんなとき、きまって子ども達の目はきらきらと輝いているもの。これからも、子ども達の目がきらきらと輝くような時間を、お稽古場で共有して参りたいと思います。
 セミナーを終え、皆様にアンケートを書いていただきました。「自分の言葉も見つめ直し、共に学びたいと思った」「日本語の楽しさを思い出せた」「お台所で語彙力アップ、早速やってみたいと思った」「語彙力のみならず、人生を豊かにすることを教わった」など、私がお伝えしたいと思っていたことがしっかりと皆様の心に届いたと思われ、こちらも安堵感と充足感をいただきました。ぜひ、お母様ご自身が楽しみながら、子どもと一緒に学んで行かれることを願っています。

磯邊季里 @ 2018年03月13日 18:32 コメント: (0)

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